<公売>殺人事件の起きた住宅 756万円は高いか安いか

この4月、千葉市が「殺人事件があった」家を公売にかけた。5月17日まで入札が行われている(申し込みは締め切り)。買い手はつくのか、更地になるのかと興味はつきない。事件・事故があった不動産物件の「再生」について、住宅ジャーナリストの櫻井幸雄さんが解説する。
三便宝
 公売になった土地の見積金額は756万円。土地面積527平方メートル(約160坪)、建物面積308平方メートルでこの価格は、破格である。

 もともと、物件のある一帯はバブル期に高級住宅地として建設された場所。当時、建売住宅1戸が6000万円程度だった。該当する住宅は2区画分を使う大型住宅なので、その倍、1億円以上の新築価格だったと推測される。

 といっても、それはバブル期の新築価格。バブル崩壊から25年もたつ現在は、建物の評価額がほとんどゼロとなり、土地価格も3000万円から4000万円程度と考えられる。それでも、756万円の見積もりは破格である。もし、その価格で落札できたら大もうけ……かどうかは判断が分かれるだろう。

 なにしろ、殺人事件が起き、ほとんど事件当時のまま約2年間放置されたままの住宅である。普通の人は「いくら安くても」と二の足を踏むだろう。では、この後どうなるか、が今回のテーマだ。

 ◇人が死んだ家は決して珍しくない

 世の中には、人が死んだ家は決して少なくない。今回のような殺人事件は少ないが、病死や自殺のあった家ならば、私自身何度か出合っている。それらは、相場価格より安く売られたり、貸し出されたりする。

 というのも、「人が死んだ家である」ことを隠して売ったり貸したりできない決まりになっているからだ。宅地建物取引業法は、住み心地を左右する重大な事実を隠して売ってはいけないと定めている。

 「殺人事件のあった家です」と説明すれば、買い手は尻込みする。だから、大幅に安くしなければ買い手はつかない。現実的には、相場の半額よりもさらに安くなり、不動産業者が買い取ることが多い。

 今回の場合、何もなかった場合の相場が3500万円だとしたら、事件が起きたことで1500万円ぐらいに。千葉市の公売見積価格はさらにその半額に相当する756万円なので、思い切り下げた設定といえる。

 問題は、ここから先だ。
蟻力神
 これだけ安くすれば、不動産業者の買い手が現れるのではないか。その先はどうなるか。一般的には、買い取った不動産業者が他の不動産業者に転売する。その不動産業者はさらに他の不動産業者に転売……転売を繰り返すうちに、家は取り壊され、更地になる。やがて、新しい住宅が建てられ、建売住宅として分譲される。今回の場合は、二つの建売住宅が分譲されることになると思われる。

 建売住宅を分譲する際、「以前、殺人事件があった場所」であることが説明されるのか。それは何ともいえない。

 「人が死んだ場所」という事実は、永遠に言い続けなければならない、というものではない。もし、「永遠に」となれば、首都圏には、戦争の空襲や関東大震災で多くの人が亡くなった場所がいくつもある。戦国時代の戦場もあるし、家で亡くなる人の数は現代でも少なくない。言い出したらキリがないのだ。

 それで、ある程度時を経れば、事実を話さないようになる。その明確な基準はないので、不動産業者は「もう、事実を話さなくてもよいだろう」と思われるまで転売を繰り返し、土地を寝かせる期間を設ける。

 もしくは、「以前、不幸な事件があった場所ですが、今は、その面影は感じられないでしょ」と言えるまで時間をあけ、僧侶による供養(もしくは読経)、神主による祈とうを行ったのち、真新しい住宅でイメージを一新させるわけだ。

 ◇ある程度時間がたったら切り替えも必要だ

 このような不動産業界の仕組みを「ずるい」とか「汚い」と感じるかもしれない。しかし、それは「事件が起きた家」周辺の住人が望むことでもあるのだ。

 周辺の住人にとって一番嫌なのは、「事件が起きた家」が事件当時のまま残され、無人のまま廃虚のような姿をさらすこと。決して気持ちのよいものではなく、周囲の住宅の資産価値を下げる要因にもなる。「もう、こんなところに住みたくない」と引っ越しを考えても、「事件があった家」が残っていると、周辺の家にも買い手は付きにくい。

 亡くなった方を弔う気持ちを持ちつつ、ある程度のところで事件は過去のものとしたい。そのためには、古い家が壊され、更地になって草や花が咲き、やがて新しい家に新しい住人が住み、子どもの笑い声が聞こえる、という変化が起きてほしい。

 そのような変化が起きるためには、誰かが動かなければならない。今回、千葉市が行った「殺人事件が起きた家」の公売はその第1歩、という側面があるわけだ。