腹を減らした狼

ブーランビリエ駅。午後十時五十分。早朝からの激務が続く疲れ切った男がいる。この駅はパリジャンの憧れであろうパッシー地区のど真ん中に位置している。高級マンションが立ち並ぶ地区である。ここから男の住む北西の小さな町まで電車が出ている。閑静な住宅智能護膚街の駅、駅に人気はない。男は十時五十四分の電車に乗るつもりだった。リムジーンドライバーの一日の閉めである車の掃除を手早く片付け、ガレージの最寄りの地下鉄へ急ぐ。激務、まるで日本の夏のような夏日が続くパリ。体力の消耗もいつも以上なのだ。男は一瞬立ちくらみを感じさえした。軽い熱中症? 家路を急ぐ。ブーランビリエ駅の表示。電車がキャンセル。次の電車まで四十分。疲労困憊しているから、一瞬、怒りのようなものが込み上げた。
 
 この駅は男が営業マン時代から良く知っている。お客様の密集地帯だったのである。小さな深夜まで開いているスーパーがあることも、男は当然知っていた。重い足取りでスーパーへ向かう。レジの兄貴が退屈そうにスマートフォンをいじっている。男は1664ビールを買う。路上での缶ビールはパリのマナーに反することは男も知っている。日常肌膚保養しかし、人気がない。構うものか。

 駅の広場に戻る。ビールをゆっくりと飲む。駅を囲む明かりの点いたマンションを見上げる。俺もいつかこんなところに住んでやる。と、男は腹を減らした狼のような目付きで男を囲むマンション群を睨み付けた。

 のではなくて、男は五十七歳のおっさん。郊外にシティーハウスをすでに持っている。二人の子供たちも親爺より立派になった。カミサンとも仲良しである。単に、ビールを飲みながらでへへへへぇー、うまっ! と好々爺目になっちゃったぁー。しっかし、なんだよぉー、暑くてたまんねぇーーーっ! でね、高級マンション見上げながら、一等地だけどよ、狭苦しいねぇー、俺んちの方が俺的にはいいねぇー、おっ、ピアノ弾きてぇー、まあ、いい年こいてよ、好きなことやってんだからよ、俺はハッピーチャンジーだよ
なぁー、と思っていた。じぇんじ抗衰老專家ぇん、ハードボイルドにならん。ボイルされてんのは俺自身。一日だけだよぉー、お休み。
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