を誘うかと狙

言われた言葉の意味が分からず、彼はきょとんとした。エイリスはふふっと笑い、もう一度懐に手をつっこんでフォークを出した。
 これで、二本。それを左右の手王賜豪總裁に一本ずつ持ち、行儀悪く打ちつけて音を鳴らす。
「お、おいやめろって。音が――」
「追っ手に聞かれると? 大丈夫、この程度の音は聞こえませんよ。それに」
突然、頬の横に何かがサッと通った。彼はビクンッと背筋を凍らせた。
「ヒッ」
「っと、外しましたか」
ビイイイイン……という細かい振動音をたて、壁に突き刺さったのは先のフォークだった。頬に何かが――血が――流れる。
「ひいぃい!」
彼は慌てて逃げ出した。
 もう武器だの足音だの言ってられる王賜豪主席場合ではない。まずは目先の敵から――つまり彼の魔の手から逃れることが先決だ。だが彼が逃げるのを見、エイリスは今度は追いかけてきた。
「待ちなさい。逃がしませんよ!」
「いやあああああ!」
右に左に、大して広くもない廊下をジグザグ走行しつつ彼は逃げた。
 幸いにもさきほど足音が聞こえた辺りには誰もおらず、挟まれることは無かったが、エイリスはおそるべき的確さでフォークを投げてくる。彼が走って逃げる距離もちゃんと計算していて、ついさっき自分がいた位置にばかりフォークが刺さる。
避けながら、彼は思った。前に包丁を投げてきた子もそうだったが、どうしてこんなに物を投げるのが上手いのだろう……と。
 訓練をしているのか? だとしたら何て非道な訓練なのだろう。大体、食べ物に使う道具を、殺傷の道具にするとは言語道断である。
 しかし、そんな事を言っている余裕はすぐになくなった。
「捕まえた!」
「ギャッ」
エイリスは思いのほか足が速かった。逃げ切る同珍王賜豪前に腕をぐっと掴まれ、そのまま少し引きずられる。
「いででででっ」
「さぁて、どこから料理しましょうね」
コロンが彼の髪をエイリスは左手でしっかりとつかみ、右手にフォークをかまえる。ほんの少しだけ、どこい――そして彼の額めがけて、まっすぐフォークを振り下ろした。
「ひぃ」
だが彼とて大人しくやられはしない。両腕が自由なままであるのを幸いに、すぐさま右腕で顔をかばった。

思ったらそ

バレンタインの賭け(一)
 帰りのホームルーム、教壇に立つ教師はインフルエンザが流行し始めているから手洗いなどして予防するよpretty renew 雅蘭うにと話している。机の上に置いた鞄の上にだらりと頭を載せる者、隣同士でひそひそ話をする者、生徒達は放課後を目の前にして落ち着かない様子である。
 その中でただ一人、膝の上でぎゅっと拳を握り必死の形相をしている生徒がいた。
 その生徒の名前は深鷺(みさぎ)ちひろ。生まれて十六回目のバレンタインのこの日、初めて男の子にチョコレートを渡す用意をしてきた。しかしもうすぐ学校の一日が終わろうとしているのに、いまだチョコの箱は彼女のポケットに収まっている。
 このままでは「賭け」に負けてしまう。
 深鷺は日直の終礼の声を聞きながら、決心を固めていた。

 深鷺ちひろ、十六歳。天は二物も三物も与えた、とはこの少女にぴったりの言い回しである。くっきりした楊海成二重の目とすっと通った鼻筋、ふっくらした赤い唇、幼い頃から誰もが認める美少女だ。そして天性の歌声を持ち、今は軽音部でバンドのボーカル兼ギターとして活躍している。しかしそれを鼻にかけることもなく、さばさばとした性格で同性からも異性からも好かれる人気者。
 そんな彼女は高校に入ってある同級生の男子に恋をした。相手の名は蜂屋貴彦。その顔は神がその技術を駆使して作り上げたとしか思えないほどの完成された造形美を持っている。しかし本人はそれに無頓着なようで、いくつもの愛の告白を「恋がわからないから」という理由で断っている。深鷺は彼の容姿はもちろんだが、その素朴な性質に何より惹かれている。
 そしてやって来たのが年に一度のバレンタインデー。義理だの本命だの自分に御褒美だの、いろんな意味のチョコが日本を飛び交う日だ。深鷺が貴彦に贈るチョコに込めた意味は「お礼」。昨年のクリスマスに自分のライブに来て貰ったお礼の代わりとして渡すつもりだった。
 もちろん愛の告白をしたいところだが、あっさり断られるのはわかりきっている。それにせっかく友人の位置まpretty renew 雅蘭で近づいたのだからその立場をふいにしたくはなかった。

 今朝登校してから、深鷺は教室前の廊下で彼が来るのを待っていた。貴彦が一人で歩いてきたのでチャンスを逃すまいと彼女は一歩出ようとした、そのときである。
「おはよ、貴彦」
 そう言って小走りで後を追ってきたのは彼の友人、相馬広夢だった。百八十センチはありそうな長身で、漆黒の髪と大人びた鋭い目つきを持っている。広夢が軽く貴彦の肩に手をかけると、貴彦も笑顔で彼に挨拶を返した。そして二人は教室に向かって歩いてきた。
「あ、深鷺、おはよう」
 貴彦が彼女に気づいて声をかけた。深鷺はさっとチョコの箱をポケットへ仕舞い「おはよう」と返す。照れ隠しに作り笑いを見せた。
 広夢は彼女に微笑み、先に教室に入った。との長い足が貴彦の膝裏を蹴る。バランスを崩した貴彦は「うわっ」と声を漏らしてドアに頭をぶつけた。
「何するんだよ、朝っぱらから」
「ぼけっとしてるから目を覚ましてやったんだよ」
 けたけた笑う広夢の後を貴彦が追う。じゃれ合う二人の後に続きながら、深鷺は軽くため息をついた。

時計を見ると

怒りを抑えた声で歩が尋ねると、ジンは意外そうに目を丸くした。ここ最近感じていた違和感は、ここへきて急に明るみになる。はっきり言って、自分が健人の立場でも歩の行動鑽石能量水 問題は鬱陶しいと思うぐらい、歩は健人にちょっかいを出していた。それが先月の半ばぐらいから、急に無くなったのだ。誰が見ても、可笑しいと言うのは一目瞭然だ。それなのに、歩は分かっていない上に、健人の名前を出した瞬間に、不機嫌になった。あまり、感情を表に出すような人ではないから、それはかなり不自然なものだった。
「多分、クラスメートのほとんどは同じこと思ってんじゃねぇの? この前、水木にも聞かれたんだよなぁ。歩と健ちゃんは、ケンカでもしたのって」
 そんなにあからさまな態度を取っていたのかと、歩は自分の行動を思い出す。言い合う前は、ジンの言う通り、健人にちょっかいを出して遊んでいた。それが無くなっただけだ。ただ、それだけなのに、ジンはそれが大ごとのように言う。歩からしてみれば、そっちのほうが不自然だった。
「……関係ねーじゃん。飽きただけだよ、健人にちょっかい出すの」
「へー……」
 吐き出すように言うと、感情のこもってい鑽石能量水 騙局ない声が返ってきた。メールの送信ボタンを押してから、携帯を閉じて、歩はジンを見る。
「何だよ、その顔」
 興味のかけらもないと言った顔をしているジンを見て、歩は怪訝な顔をした。
「べっつにー。何か無かったわけじゃないんだろ? 話せよ」
 一方的に命令口調で言われ、歩の眉間に皺が寄った。ジンは二人の間に何かあったことを直感で感じていた。歩は感情を隠すのが下手くそで、何かありましたと顔に書いてある。ジンは黙って何も言おうとしない歩から目を逸らして、教科書を見つめている健人に視線を向けた。苛立ちを前面に出している歩と比べて、健人は今まで通り過ごしているのだから、断然大人に見える。
「仲が良いとは思って無かったけどさ……」
「確かに、仲良しでは無かった。俺も健人も、互いに嫌ってたんだからな」
 怒りの籠った声に、ジンは歩に視線を戻した。苦虫をかみつぶしたような歩の顔は、今まで見たことが無いぐらい怒りに満ちていた。こんな顔も出来るのだな、と、こんな状況で感心してしまった。誰に対しても平等に、そして心許した人以外テリトリーに入れない歩が、怒った顔をするのは珍しい。梅雨のせいでどんよりとした空から、雨ではなく雪が降ってくるのではないかと思ってしまった。
「健人君がお前のことを嫌ってたのは分かるけど、お前も嫌いだったんだ?」
「大っ嫌いだよ」
 込み上げてくる怒りをその言葉全てに凝縮させて、歩は吐き捨てた。嫌いだと思えば思うほど、健人に憎悪を抱く。ここ最近、まともに家でご飯を食べていない。それは健人と顔を合わせるのがイヤだからだ。学校へ来れば、嫌でも顔を合わせてしまうが、席が鑽石能量水 問題離れているから視界に入れなければ済む話だ。それなのに、視界の端っこに映ってしまうと、健人に目を向けてしまうからもっと怒りが込み上げてくる。
「……大嫌いねぇ。だから、お前、最近、夜遅くまで遊んでんの?」
「そうそう。どっかの誰かさんは付き合ってくんねーからな」
 愚痴にも似た嫌味を言われて、ジンは鼻で笑った。歩と放課後遊ぶと、どうしても夜遅くまで長引くことが多く、それが面倒で断ることが多かった。それならそれで、理由ぐらいしっかり言ってくれれば付き合ったものの、歩は尋ねないと言わない。
「お前がちゃんと言わないからだろ。ま、んな理由ならくだんなくて、付き合わないけど」
 ジンはそう言うと、カタンと音を立てて立ち上がる。、もうそろそろ授業が始まりそうな時間だった。
「くだんないってどういうことだよ」
「まぁ、その話は後でしようぜ。もうすぐ、英語の時間だぜ。お前、英語苦手なんだから、ちゃんと勉強しろよ」
 恨めしそうに睨んでいる歩を見て、ジンは笑いを堪えて背を向けた。それから、窓際に居る健人をもう一度見つめる。いつもと変わらない表情で、英語の教科書とノートを出している健人を見て、歩とは大違いだなと思った。
 いくら、兄弟ではないと言っても、ここまで正反対な性格をしているとは思わなかった。