が、頬がうっすらと

「てこたあ、手前《てめえ》が愉しみたいからさらったのか。全く大したガキだな。なあリリィ。どっかのおぼこにも見習ってもらいたいもんだ」
 と俺は背後のリリィに向けて笑った。
「依頼人の前だぞ。その発言は失礼だ」
 リリィは顔をしかめていたが、頬がうっすらと染まっていた。俺が肩を竦《すく》めてボブテイルに向き直ると、
「お願いします、どうか、どうか彼女を、アイナを。アイナを」
「アイナ、ね」
「彼女は今頃、酷《ひど》いことをされていると思うんです。ああ、考えただけでも」
 ボブテイルは言葉を詰まらせ、やがて右手で顔兒童成長椅を覆ったかと思えば、肩を震わせて嗚咽《おえつ》を漏らした。
「同情はするがね。さて、と。あんたのアイナの特徴を教えてもらおうか。肌の色、目の色、髪の色、顔の造りに喋《しゃべ》り方、細かいことまで漏らさず全部だ。馬鹿が見ても分かるような説明を頼む」
 ボブテイルは俺の言葉に姿勢を正し、かと思えば泣き腫《は》らした顔に自慢げな表情を作り、上着の内ポケットから、革の札入れを取り出した。
 渡された札入れを開くと、中には一枚の写真が納められていた。
 驚いた。
 写真を撮るのは金持ちのたしなみだと思っていたからだ。俺の生国ではそろそろ一般的になりつつあるという話も聞くが、時代遅れのこの街では、まだまだ高価なものである。
 が、渡された写真を一目見て何かの間違いだろうと思った。背後からリリィが覗き込んでいる感触を肌で感じつつも、それでも何も言えなかった。
 代わりにリリィが口を開いた。
「その、肝心のアイナさんが写っていないようなのだが」
「え? 嫌ですよ、からかおうったって駄目です。ちゃんと写ってるじゃないですか。僕が抱いている女性がアイナです。ああ、アイナ、アイナ」
 ボブテイルは彼女のことを思い出したらしく、また顔を覆った。
 俺はリリィと視線を交わし、その後で再び手の中の写真を見た。
 写真の中のボブテイルが抱いていたのは、一匹の黒い猫だった。

「ボブテイル。下の店に行って店長から薬を買って来い。ココの紹介だって言えば卸値《おろしね》で買える。あんたがきめるんじゃないぜ。俺たちがきめるんだ。そうすりゃきっとこの写真に写ってるはずの女が見える。なあそうだろ?」
「え?」
「お前な、どこが彼女だ。ただの黒猫じゃねえか。頭おかしいんじゃねえのか? それとも手前《てめぇ》はとっくにジャンキーなのか? ああそうだな。そうに決まってる。猫を人みたいに話すんだ。幸せな脳味噌で羨《うらや》ましい。最っ高だよボブテイル」
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