ントを引き下ろ

スパーホークはときどき馬から下りて、ある特定の種類の低い灌木《かんぼく》の枝を切り、進む方角がわかるように地面に並べた。
「何をやっているんだ」水の滴《したた》る青いマン老年黃斑病變トをしっかりと身体に巻きつけながら、とうとうティニアンが尋ねた。
「クリクに進む方向を教えてやらないとな」スパーホークはそう答え、馬にまたがった。
「なかなかいい考えだが、どの藪の下を見ればいいのかわからないんじゃないか」
「いつも同じ種類の灌木を使うんだ。クリクとのあいだで、ずっと以前から決めてある」
 空はいっこうに泣きやみそうにない。あらゆるものに疣治療染みこんでくる、気の滅入る雨だった。焚き火はなかなか燃え上がらなくなり、しかもふいに消えてしまうことが多くなった。ときどきラモーク人の村や孤立した農園があるものの、人々はたいてい雨を避けて家の中に閉じこもり、牧場に放されている家畜は濡れそぼって、みじめな有様だった。
 湖までもう少しというあたりで、やっとベヴィエとクリクが追いついてきた。その午後の天気は大荒れで、雨がほとんど真横から地面に叩きつけていた。
「オーツェルは大聖堂へ送り届けてきました」ベヴィエが顔の水滴をぬぐいながら報告した。「それからドルマントの自宅へ行って、ラモーカンドで起きていることを伝えてきました。内乱が濕疹カレロスから聖騎士団を引き離すための策謀だろうという点で、意見が一致しました。阻止するためにできる限りのことをすると言ってくれています」
「よかった。マーテルの企みが水の泡になるって報告を聞くのは大好きなんだ。道中何か問題はあったか」
「とくにありません。ただ街道はどこも見張られていて、カレロスには兵隊がうようよしています」
「その兵隊はみんなアニアスの手下なんだろう」カルテンが渋い顔で言う。
「総大司教選挙にはほかの候補者もいるんだよ、カルテン」ティニアンが指摘した。「アニアスがカレロスに兵隊を引き連れてくれば、ほかの候補者も同じことをするしかない」
「聖都の街路で戦いになるのだけは見たくないな。クラヴォナス総大司教のお加減はどうだ」スパーホークはベヴィエに尋ねた。
「急速に消耗しているようです。聖議会も、さすがに猊下のご容体を一般大衆に隠しておけなくなってきています」
「ということは、おれたちももっと急がないと」カルテンが言う。「クラヴォナスが死ねばアニアスは動きはじめるだろう。そうなればもうエレニア国の国庫も必要ない」
「少し急ぐことにしよう」スパーホークが言った。「湖まで、まだ一日かそこらはかかるはずだ」
 と、クリクの非難がましい声がした。
「スパーホーク、甲冑が錆《さ》びてますよ」
「本当か」スパーホークは黒いマし、肩当てに点々と浮いた赤錆を見て目を丸くした。
「油瓶がどこにあるかわからなかったんですか」
「ほかのことで頭がいっぱいだったんだ」
「そんなことだろうと思いました」
「悪かった。自分で磨くよ」
「やり方がわからないでしょう。鎧を侮《あなど》っちゃいけません。わたしがやります」
 スパーホークは仲間たちの顔を見まわし、むっつりと警告した。
「この件について誰か何か言ったら、決闘だ」
「あなたの気持ちを傷つけるくらいなら、死んだほうがましです」ベヴィエがどこまでもまじめな顔で答えた。
「ありがとう」スパーホークは断固とした態度で、降りしきる雨の中、錆びた鎧を鳴らしながら進んでいった。
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