とがらを含んでい

「ベル、ガラス、さん」チューピクがボートの脇から頭をぴょこんと出して言った。「あり、が、とう」
「おまえもそのうちにちゃんとしゃべれるようになるぞ、チューピク」老人は言った。「あとひと息だ」
「そう、かも、しれま、せんが」チューピクは苦労しながら答えた。「いいたい、こと、と、しゃべる、こと、ちがいます」
「なあに、今にきみもうそをつくことを覚えるさ」シルクが皮肉っぽく言った。「そうなれば人間とまったく変わりなくぺらぺらしゃべれるようになる」
「どうして、うそ、つくと、しゃべれる、の、ですか」チューピクが不思議な顔でたずねた。
「今にきみにもわかるようになるさ」
 チューピクはかすかに顔をしかめると、水の中にもぐりこんだ。ボートから少し離れたところで、かれは再び頭を出した。「さようなら」かれは三人に呼びかけた。「チューピクは、おかあさんのために、ありがとうを、いいます」かれは水面を乱すこともなく、姿を消した。
「まったくもって不思議な連中だな」ベルガラスはほほ笑みを浮かべた。
 突然シルクが仰天したような悲鳴をあげると、狂ったようにポケットを探った。何か淡い緑色をしたものがかれの手から跳びはねたかと思うと、水のなかに飛びこんだ。
「いったいどうしたんだ」ガリオンがたずねた。
 シルクは身震いした。「あの小さな化け物がわたしのポケットに蛙を入れやがった」
「たぶん、お礼のつもりだろう」ベルガラスが言った。
「蛙がですか」
「ではやはり違うな」ベルガラスはにやりと笑った。「多少荒削りかもしれんが、恐らくはこれは連中のユーモアのセンスの始まりに違いない」
 沼地の東側を南北に走る土手道を数マイルほどいったところにトルネドラの宿屋があった。午後おそく到着した一行は、シルクが目玉が飛び出るほどの値段で馬を購入した。そして次の朝にはボクトールに向かって馬を走らせていた。
 沼地でのできごとはガリオンにいろいろと考えるきっかけを与えた。かれは同情もまた愛の一部なのだということを知り始めていた――愛というものはこれまで考えていたような狭い意味のものではなく、もっと広く深いものだったのである。よく考えてみれば愛という言葉は、ひとめ見ただけでは、およそ関係ないと思えるようなさまざまなこたのだ。これらのことを理解するにつれ、かれの心のなかにひとつの考えが芽生えた。人々が不老不死の男と呼びならわしているかれの祖父は、その七千年にも及ぶ生涯のなかでほとんど人知の及ばないところまで、愛する能力を発達させてしまったのだ。ぶっきらぼうで怒りっぽい外見にもかかわらず、ベルガラスの全生涯はとてつもなく並はずれた愛の発露に満ちていた。ガリオンは馬上からしばしばこの不思議な老人を振り返らずにはいられなかった。すべての人間の上に厳然とそびえたつ万能の魔術師というイメージはいつしか消え、かれはその裏にひそむ真の顔を見いだしていた――非常に複雑ではあるが、人間らしい男の顔を。
 晴れ渡った空のもとで二日後にかれらはボクトールに着いた。
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