ロマンチカ。

夕刻。
海の上に現れた月は赤かった。
「……満月」
時々こうして訪れる海。
砂浜はワカメだらけで
お世辞にも綺麗とは言えない。
定位置である岩の上に座り
一定のリズムを刻みながら寄せては返す波を
じっと見つめた。

特別な事はなにもない。
なにも。
それでも時々
こうしてここで時間を潰したくなる時がある。
弱音を噛み潰したくなる時がある。

「喪失感……か」
何をするでもなく
ただ海を見てるだけ。
それにより何かが変わるわけでも
起こってしまった何かを変えられるわけでもない。
でも、心は楽になるんだ。
不思議だけど。

立ち上がり波打ち際を歩いた。
砂浜を歩く時は裸足でと決めているから
靴は遠くへ放り投げた。
浜を濡らす波が熱を奪っていき
海へ戻る波が足裏を擽る。
再び月を見上げ
突如として沸き上がる衝動。

(ねえ……これが弱い方ってやつ?)
田舎の海だ。
すみの方にある、忘れ去られた小さな海だ。
人影のない、静かな海。
だから何の問題もないのだけど
それでも。
大声で叫ぶには少し抵抗があった。
だから小さく呟いてみたんだ。

頬を赤く染めながら。

思った以上に照れたし
思った以上に満足だった。
それだけで。
 喪失感じゃない。
 足りないもの、
 あたしも知ってるよ。

心の中に溢したのは
噛み潰せなかった弱い方。
こんな夜は無性に聴きたくなる。
魔法をかけて欲しくなるんだよ。
なーんて
これも弱い方だな。

時間と共に色を変える月を見て思ったよ。
煙草を燻らせ夜に溶ける
妖姫
花痴