糸端

卒業式の靴箱で

あの時もし君を待ったなら
お年寄りを気遣い歩く君を町で見かけ

声をかけていたら
駅のホームの公衆電話

立ち止まって話しかけていたら
偶然乗り合わせた同じ車両で

知らないふりをしなかったら
結婚はしたのか

今でも幸せでいるのかと

友達経由で聞いてくれたことに

君の元に届くように言葉を還していたら
偶然というものは

そうそう無いのに

ほんの少しの縁のズレ

たぐり寄せる勇気の無い私は

見て見ぬ振りをした。
人と人とは

駅のホームに居るようなもので

たとえ列車を降りても

同じ行き先の違う列車に乗っているのなら

風の便りに聞くこともあるかもしれないが

逆の列車に乗れば

二度と巡り逢うことは無い。
ましてや
一方の旅が終わる可能性だってある。
手繰り寄せれば

掴めたかもしれないあの縁
その縁糸の先が切れたのかどうか

確認する術はもはや無いまま

私は今も

糸端の片方を握っている。
徳国黒金
蔵秘男宝