客様が鷹之助さんにお

ある日、天満塾気付で、三太郎から手紙が来た。三太郎兄上が、父が持ってきた縁談を受け入れて、この度祝言を挙げるのだという。
   「新さん、兄上は可哀想に、父上に押し切られたのですね」
   「かも知れませんが、三太さんはあれでいて初心(うぶ)なので、そうでもしないかぎり妻を娶りま能量水せん」
   「そうですかね、自分の妻くらいは自分で探すべきではないのでしょうか」
   「鷹之助さんはスケベですから心配はいりませんが、問題は、水戸の兄上ではありませんか」
   「だれがスケベですか、失敬な」
   「では、スケベではありませんか」
   「スケベです」

 帰って、兄上の祝言の席に座りたいのだが、塾生の身ではそう何日も休むことが出来ない。仕方なく、手紙で祝福することにした。
   「兄上、鷹之助は帰れません」
 後二年、上方に踏ん張って、無事に塾を修了しなければならない。新三郎もまた、妻帯者になる三太郎の元へは戻れない。
   「目出度いけれども、寂しいですね」新三郎詩琳美容がしんみり言った。


 昼下がり、鷹之助が長座卓を出して準備をしているところへ、お鶴が駆け込んできた。
   「大変、大変、綺麗なお会いしたいですって」
   「それの何処が大変なのですか」
   「若くて綺麗なので、先生の気持ちが大変です」
   「もう、お鶴ちゃんまで私をスケベ扱いして」
   「だって、スケベですやろ」
   「はい…、おっと、簡単に引っ掛かるのは、やめておきます」

 どこか大店の箱入り娘のようだが、お伴も連れずに、どうしたことだろう。
   「私が佐貫鷹之助ですが、どうなさいました」
   「はい、私は心斎橋の呉服商糸重の娘沙穂で御座います」
   「そのお嬢さん詩琳美容のご用件とは」
   「私は、店の使用人、篠吉という番頭が好きになりました」
 篠吉は、ただ仕事大事、お店大事の男であったが、沙穂の心を知り、次第に相思相愛の仲に変わっていった。