「出ていけ、二度と戻ってくるな!」

彼の「出ていけ、二度と戻ってくるな」という言葉にあなたは傷つく。

とはいえたぶん彼は文字どおりの意味でそう言ったわけではない、
いやもしかしたら「出ていけ」の部分は文字どおりの意味だったのかもしれない。

なぜなら彼はあなたに対してとても怒っているので、
今この瞬間はあなたにそばにいて欲しくないと思っているかもしれない。

でも永遠に戻ってきてほしくないと思っているわけではなく、
遅かれ早かれ戻ってきてほしいと思っているはずで、
それが遅いか早いかは、
あなたが出ていっているあいだに怒りがどれくらいの速度で弱まるか、
そしてあなたに対して抱いている怒り以外のいつもの愛おしい感情を思い出して、
今の怒りがどれだけ和らげられるかにかかっている。

でも、たとえ「出ていけ、」の部分は文字どおりの意味で言ったのだとしても、
彼が本当に言い表そうとしたのは、
言葉の文字どおりの意味よりもその言葉に込められた怒りのほうであって、
「二度と戻ってくるな!」の部分も、
本当に言い表そうとしたのは怒りのはずだ。

彼はただ、
誰かがそういう言葉を文字どおりの意味、
つまり<もう永遠に戻ってきてはならない>という意味で言った場合にそこに込めうる怒りのありったけを言い表そうとしたのであって、
いや正確には”ありったけ”ではなく“ほぼありったけ”と言うべきで、
というのはもし”ありったけ”の怒りを言い表そうとしたとなると、
その言葉の文字どおりの意味、
つまり<もう永遠に戻ってきてはならない>という意味で言ったことになってしまうからだ。

だが怒っているからといって、
もし彼がただ「僕はきみに対してとても怒っている」としか言わなかったら、
あなたは今ほど傷つかないか、
あるいはまったく傷つかなかっただろう、
たとえ彼の怒りの度合いが<もう永遠に戻ってきてはならない>という言葉どおりのレベルに達していたとしても。

あるいは彼の本当の怒りのレベルとあなたが感じている彼の怒りのレベルが完全に一致しうるということはありえないのかもしれない。

あるいはレベルは同じでも種類が違っていて、
一般的な怒りが互いに共有しうる一つの問題として「ごめんね」で解決しうる種類の怒りであるのに対し、
本件の怒りは、文字どおりの意味で言うつもりのない言葉を使うことでしか言い表せない種類の『断絶した』怒りなのかもしれない。

つまりあなたが傷つくのはこの言葉にこめられた怒りそのものにではなく、
「出ていけ、二度と戻って来るな!」という言葉そのものでもなく、
彼が<もう永遠に戻ってきてはならない>ということを意味する言葉を、
文字どおりの意味で言うつもりがないのに、
それをあえて選ぶしかないという、

その『断絶』になのだ。
壮三天
魔根