は淋しいし心

彼はモーツァルトの素晴らしさについて物静かにしゃべった。彼は田舎の人々が山道について熟知しているように、モーツァルトの音楽の素晴らしさを熟知していた。父親が好きで三つの時からずっと聴いてるんだと彼は言った。僕はクラシック音楽にそれほど詳しいわけではなかったけれど、彼の「ほら、ここのところが――」とか「どうだい、この――」といった適切で心のこもった説明を聴きながらモーツァル背幕トのコンチェルトに耳を傾いていると、本当に久しぶりに安らかな気持になることができた。僕らは井の頭公園の林の上に浮かんだ三日月を眺め、シーバスリーガルを最後の一滴まで飲んだ。美味い酒だった。

伊東は泊っていけよと言ったが、僕はちょっと用事があるからと言って断り、ウィスキーの礼を言って九時前に彼のアパートを出た。そして帰りみち電話ボックスに入って緑に電1064激光嫩膚話をかけてみた。珍しく緑が電話に出た。

「ごめんなさい。今あなたと話したくないの」と緑は言った。

「それはよく知ってるよ。何度も聞いたから。でもこんな風にして君との関係を終えたくないんだ。君は本当に数の少ない僕の友だちの一人だし、君に会えないのはすごく辛い。いつになったら君と話せるのかなそれだけでも教えてほしいんだよ」

「私の方から話しかけるわよ。そのときになったら」

「元気」と僕は訊いてみた。

「なんとか」と彼女は言った。そして電話を切った。

五月の半ばにレイコさんから手紙が来た。

「いつも手紙をありがとう。直子はとても喜んで読んでいます。私も読ませてもらっています。いいわよね、読んでも

長いあいだ手紙を書けなくてごめんなさい。正直なところ私もいささか疲れ気味だったし、良いニュースもあまりなかったからです。直子の具合はあまり良くありません。先日神戸から直子のお母さんがみえて、専門医と私をまじえて四人でいろいろと話しあい、しばらく専門的な病院に移って集中的な治療を行い、結果を見てまたここに戻るようにしてはどうかという合意に達しました。直子もできることならずっとここにいて治したいというし、私としても彼女と離れるの配でもあるの工作椅ですが、正直言ってここで彼女をコントロールするのはだんだん困難になってきました。普段はべつになんということもないのですが、ときどき感情がひどく不安定になることがあって、そういうときには彼女から目を離すことはできません。何が起るかわからないからです。激しい幻聴があり、直子は全てを閉ざして自分の中にもぐりこんでしまいます。