ヒトジチ

期せずしてタイムリーな作品になった。ヒトジチという言葉の響きを聞くと、世界を震撼させている集団が、いやが上にも思い出される。幸か不幸か、事件に直結するシリアスな作品ではない。歌や躍りを交えたユーモアによって、ヒトジチを取り囲む人々や社会の閉塞感を痛快に笑い飛ばす。迷いなき筆致に拍手を送りたい。
勃動力三體牛鞭
IRA(アイルランド共和国軍)を描いた作品といえば、リチャード・ビーンの「ビッグ・フェラー」が記憶に新しい。どちらも風刺が効いていて、体制側への不満を然り気無く表現する。

「ヒトジチ」でも、英国人の人質を監視するIRA兵士は、お馬鹿な言動を見せるなど滑稽に描かれている。作者ブレンダン・ベーハンはIRAの元兵士で、テロ行為による逮捕経験もある。複雑な心情が、捻れた形で反映されている。

アイルランドの連れ込み宿を舞台に、娼婦やニューハーフら一癖も二癖もある人々が蠢く群像劇だ。多様な服装や化粧を施して仮装大賞のような様相で、ゴーリキー作「どん底」を陽性にした感じ。

かつての狂騒への羨望を糧に生きる姿は、バブル崩壊後の日本人に見えなくもない。その象徴は、かつての内戦を忘れられず、取り付かれたようにバグパイプを吹き続ける将校だ。
黒倍王
バグパイプは、発祥地スコットランドだけでなく、アイルランドでも市民に根付いている。ちょっとした発見だった。

ある日、連れ込み宿に英国人が人質としてやって来る。興味津々に見つめる常連客。IRAの監視者が前述のように不毛な存在なので、恋愛や酒などやりたい放題。とても人質には思えない。だが、ラストには極めて残酷な現実が待ち受ける。戯曲というより、小説的な醍醐味かもしれない。

本作では、奈良岡朋子、樫山文枝、日色ともゑら重鎮が参加せず、若手役者が中心を担った。作品内容と共に挑戦的な座組みであり、劇団民藝の新時代を予感させる。