おれはこっちに残っ

「そうだね。まったくだよ。きみを凌《しの》ぐくらいだ」悲しげな顔を作って、「神々しい女の子に鼻面を引きずりまわされるのが、わたしの運命らしい」
 ダナエ王女と母親は頬をすり寄せ、そっくりの表情で無邪気を装った。
 翌日から仲間たちが到着しはじめた。誰もがどうしてもシミュラを訪れなくてはならない理由を抱えていたが、それは主として悪い知らせを伝えるためだった。エムサットから南行してきたアラス頭髮保養がもたらしたのは、長年の大酒がたたって、とうとうウォーガン王が肝臓をやられたという報告だった。「杏《あんず》の実みたいな顔色をしてる」というのが巨漢のサレシア人騎士の言葉だった。ティニアンの報告は、オブラー老王がぼけてきたというものだった。ベヴィエはエシャンド派がまた叛乱を企んでいる可能性が高いという、レンドー国からの報告を携えていた。ストラゲンは対照的に明るい顔で、本職のほうが大いに好転していると報告したが、それはどう考えてもいい知らせではなかった。
 そんな状況ではあっても、一行はふたた整容び一堂に会することのできたこの偶然の機会を大いに楽しんだ。
 また仲間がそばにいてくれるのは悪いことじゃない。眠っている妻を起こさないようにそっとベッドから滑り出て、スパーホークはそう思った。前の晩は遅くまで話に興じ、朝は朝で別の仕事があって早く起きなくてはならないため、騎士はいささか寝不足ぎみだった。
「ドアを閉めて、お父様」寝室から出てきたスパーホークを見て、ダナエが静かに声をかけた。王女は火のそばの大きな椅子の中に丸くなっておさまっていた。夜着をまとい、足には例の草の汁がついている。
 スパーホークはうなずき、ドアを閉め中醫腰痛て娘のそばに近づいた。
「全員そろったわね。じゃあ始めましょう」
「いったい何をしようというんだ」
「郊外まで遠乗りをしようって持ちかけてちょうだい」
「理由がいるな。遠乗りを楽しめるような天気じゃない」
「理由は何でもいいわ。適当にでっち上げて、提案してちょうだい。みんなすばらしい考えだと思うはずよ。わたしが保証する。出かけたらデモスのほうに向かって。セフレーニアとヴァニオンとわたしが、街から少し離れて待ってるから」
「何だかよくわからないな。おまえはもうここにいるじゃないか」
「そっちにもいるのよ、スパーホーク」
「同時に二つの場所にいるってことか」
「それほど難しいことじゃないわ。しょっちゅうやってるの」
「それはいいが、おまえの正体がばれてしまうんじゃないか」
「大丈夫。みんなにはフルートに見えるはずだから」
「おまえとフルートは、それほど違っては見えないぞ」
「お父様にはね。ほかの人たちに見える姿はちょっと違うのよ」ダナエは椅子から立ち上がった。「とにかく、お願いね」そう言うと軽く片手を振り、ロロを引きずってドアに向かう。
「降参だな」スパーホークはつぶやいた。
「聞こえたわよ、お父様」ふり向きもせずにダナエが言った。
 そのあと一同が朝食の席に集まったとき、実に都合よく話の口火を切ったのはカルテンだった。
「何日かシミュラの外に出かけられるといいんだがな」金髪のパンディオン騎士はそう言ってから、エラナのほうに目を向けた。「ここが気に入らないってわけじゃないんですよ、陛下。でも王宮にいると、どうもなかなか旧交を温めるってわけにいかなくて。いい具合に盛り上がってきたと思うと廷臣がやってきて、今すぐスパーホークに来てもらわなくちゃならないってことになるんです」
「カルテンの言うとおりだ」アラスも同意した。「旧交を温めるのは、酒場のどんちゃん騒ぎのようなものだ。途中で何度も邪魔が入っては、存分に楽しめない」
 スパーホークはふとあることを思い出した。
「前に言っていたこと、あれは本気だったのかい、エラナ」
「わたしはいつだって本気よ。いつのことを言ってるの」
「わたしに公領を与えると言ったことがあったろう」
「そうしようと、もう四年も頑張ってるのよ。どうしてこれ以上悩まなくちゃいけないのかしらね。いつだってあなた、何か申し出を断わる口実を見つけ出してくるんですもの」
「無下に断わることもないかな――とにかく一度その公領というのを見てからの話だ」
「何を考えてるの、スパーホーク」エラナが尋ねた。
「邪魔されずに再会を祝う場所がいるんだよ、エラナ」
「どんちゃん騒ぎだ」アラスが訂正する。
 スパーホークは笑みを浮かべた。
「何にせよ、その公領というのを見てみようじゃないか。たしかデモスのほうだったな。みんなもじっくりと屋敷を見たいんじゃないか」
「みんな?」とエラナ。
「何かを決めようとするとき、仲間の助言は邪魔になるものじゃない。全員でその公領を見にいこうじゃないか。みんなはどう思う」
「当たり前のことを革新的に見せる能力は、すぐれた指導者の条件の一つだ」ストラゲンがもの憂げに言った。
「どっちみち、もう少し外に出るべきなんだよ」スパーホークは妻を説得した。「ちょっとした休暇ということにしようじゃないか。どうせ心配の種なんて、留守のあいだにレンダが親戚を二ダースばかり、政府の金で養おうとするかもしれないってことだけなんだし」
「まあ、みんなで楽しんできてくれ」プラタイムが言った。「おれは慈悲に厚い人間だからな。鞍にまたがるたびに馬がつぶれて悲鳴を上げるのを見るのは、いい気分じゃないんだて、レンダ伯を見張ってるよ」
「馬車で行けばいい」ミルタイが言った。
「どの馬車のことを言ってるの?」とエラナ。
「あなたが雨に濡れないように乗っていく馬車よ」
「馬車なんて必要ないわ」
 ミルタイの目がぎらりと光った。
「エラナ! 問答無用よ!」
「でも――」
「お黙りなさい」
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