ていた古屋を次々と

塾は午前中で終わると言うので、辰吉は子供たちの後ろで待つことにした。子供たちは辰吉が気になるのか、勉強途中に失眠チラチラ後ろを見ていた。この後、子供たちを送って行くと、辰吉のおごりで外食をし、三太の奉公する相模屋長兵衛のお店(たな)へ会いに行った。
   「番頭さん、お客さんだす」
 三太さんに会いたいと言うと、小僧が取り継いでくれた。三太はこのお店の番頭らしい。
   「おや、辰吉坊ちゃん、帰ってきはりましたか」
   「はい、江戸の辰吉、ただ今戻りました」
   「何が江戸の辰吉や、もう旅鴉やあらへん、福島屋辰吉と名乗りなはれ」
   「福島屋辰吉、恥ずかしながらただ今帰って参りました」
   「余計なことは言わんでもよろしい、何が恥ずかしながらやねん」
   「へい」
   「それで、亥之吉旦那に会ってきはりましたのやろな」
   「いえ、まだ」
   「何をしていますのや、真っ先に康泰領隊お父っぁんに顔を見せなはらんか」
   「それが…敷居が高くて」
   「旦那さんも、お絹女将さんも、心配して待っていなはるのに、何が敷居や」
 ようやく、三太は辰吉に連れが居ることに気が付いた。
   「そのお方は?」
 ちょっと三吉を見た三太は、直ぐに気が付いたようであった。
   「三吉先生やおまへんか、やっぱり三吉さんや」
 三吉は頷き、三太は懐かしそうに三吉の手を取った。
   「すっかり大人になりはったが、面影は残っています、やっぱり兄弟ですねぇ、源太さんにそっくりですわ」
 三太は、大坂に帰ってきたとき、真っ先に鷹塾の有った場所に行ってみたそうである。建物は壊されて、土地は草が生え茂り、鷹塾は跡形もなく消えていた。鷹之助の奥方、お鶴の実家に行って塾生であった子供たちのその後の消息を尋ねたが、分からないということであった。
 鷹之助の元で学ぶ源太の元気な消息を伝えようと源太の実家を訪ねてみたが、荒れ果てて人の住む様子はなかった。
   「三吉さん、今ご両親はどこにお住まいですか?」
   「両親は亡くなりました、源太の他にもう一人弟が居ますが、大工の棟梁の元で修業しております」
   「そうでしたか、源太さんに会いましたが、ご両親が亡くなったとは一言も言っておりませんでした…」
   「親父の遺言で、源太には知らせるなと固く止められていましたので…」
   「修業の邪魔になるからでしょうか」
   「そうだと思います」
   「三吉さん、あなたはどうしてここに?」
 三吉は、当時鷹之助の助手をしていたが、鷹之助が信濃へ帰ったあと、意志を受け継いで、鷹塾を再開したこと、借り追脫髮われたこと、地廻りに金を巻き上げられていることなどを三吉に代わり辰吉が代弁した。
   「知っていれば、わいがなんとかしたものを…」
 三太は悔しがった。