で商いを憶えさ
「ごめんなさいよ、裏口から逃げちまった、あんな我儘な女ではなかったのだけどね、代わりにもっと若い娘にお相手をさせるので、堪忍してくださいな」
「要らない、俺は小万の亭主なのだ、遊びに来たのではない」
弥太八と辰吉は旅籠を飛び出して裏口に回ったが、どこに隠れたのか、小万の姿は無かった。
「きっと、関へ戻る積りだろう、俺も関へ行く、なに俺が先回りすることになっても、あのボロ家で隠れて待っていてやるさ、小万は筵で囲ってでも生きていけると言ったのだ、必ずあの家に戻ってくる」
弥太八は、辰吉に頭を下げた。
「俺は喧嘩の上、人を死なせてしまったので関には住めないのだ、小万を見付けたら大坂へもどる、何時になるかわからないので、俺より先に大坂へ戻ったら、店の番頭さんに伝えてくれ」
「そうか、わかった、俺が全部用を終えたら、帰りに関へ覗きにいきますぜ、もしその時弥太八さんがやくざに戻っていたら、俺はお前さんを番所に突き出してやる、いいか覚えておけよ」
「俺がまだ小万を掴まえられていなかったら?」
「俺も弥太八さんと共に、小万姐さんを探すさ」
辰吉は、親父の店のことなど眼中になく、本気で探す積りである。
「いつか俺が弥太八さんと小万さんの祝言を挙げてやる」
「そうかい、有難う、何だか倅に言われているようで、泣けてくるよ」
「弥太八さん、涙脆いのだねぇ」
「歳の所為でしょうかねぇ」
もう一度弥太八に付いて関へ行くという辰吉だったが、「俺は大丈夫だ」と言う弥太八と別れて、辰吉は信州に向かった。
「あいつ、小万さんに貰った金を、博打で使い果たすのではないか」
辰吉は、ちょっと心配であった。小万姐さんが命を賭けて作った金だ。もしそんなことになっていたら、あいつの両腕の骨を折って、博打が出来ないようにしてやると、真剣に考えている辰吉である。
それから何日か経って、辰吉は信州の緒方三太郎の診療院の門を叩いた。
「あ、江戸の辰吉さんでしたか」
出てきたのは、若い医者の三四郎であった。
「才太郎の様子を見に来ました」
「才太郎は元気ですよ、もう殆ど治っているので、よく我らの手伝いをしてくれます」
「よかった、そろそろ大坂へ連れていけますか?」
「えっ、大坂へ連れて行くのですか?」
「はい、俺の親父の店せ、立派な商人にしてやります」
「本人がそう言ったのですか?」
「はい、才太郎もその積りでいるでしょう」
三四郎医師は、才太郎を呼び寄せた。
「江戸の辰吉さんだ、おいらの命を助けてくれて、有難うございました、もう大丈夫です」
「そうかい、それは良かったなぁ、もうすぐ、大坂へ行けるぞ」
「大坂へ行くのですか?」
「当たり前だろう、大坂へ行って立派な商人になるのだ」
「いえ、おいらはここに居て、三四郎先生や、佐助先生のような立派な医者になります」
「要らない、俺は小万の亭主なのだ、遊びに来たのではない」
弥太八と辰吉は旅籠を飛び出して裏口に回ったが、どこに隠れたのか、小万の姿は無かった。
「きっと、関へ戻る積りだろう、俺も関へ行く、なに俺が先回りすることになっても、あのボロ家で隠れて待っていてやるさ、小万は筵で囲ってでも生きていけると言ったのだ、必ずあの家に戻ってくる」
弥太八は、辰吉に頭を下げた。
「俺は喧嘩の上、人を死なせてしまったので関には住めないのだ、小万を見付けたら大坂へもどる、何時になるかわからないので、俺より先に大坂へ戻ったら、店の番頭さんに伝えてくれ」
「そうか、わかった、俺が全部用を終えたら、帰りに関へ覗きにいきますぜ、もしその時弥太八さんがやくざに戻っていたら、俺はお前さんを番所に突き出してやる、いいか覚えておけよ」
「俺がまだ小万を掴まえられていなかったら?」
「俺も弥太八さんと共に、小万姐さんを探すさ」
辰吉は、親父の店のことなど眼中になく、本気で探す積りである。
「いつか俺が弥太八さんと小万さんの祝言を挙げてやる」
「そうかい、有難う、何だか倅に言われているようで、泣けてくるよ」
「弥太八さん、涙脆いのだねぇ」
「歳の所為でしょうかねぇ」
もう一度弥太八に付いて関へ行くという辰吉だったが、「俺は大丈夫だ」と言う弥太八と別れて、辰吉は信州に向かった。
「あいつ、小万さんに貰った金を、博打で使い果たすのではないか」
辰吉は、ちょっと心配であった。小万姐さんが命を賭けて作った金だ。もしそんなことになっていたら、あいつの両腕の骨を折って、博打が出来ないようにしてやると、真剣に考えている辰吉である。
それから何日か経って、辰吉は信州の緒方三太郎の診療院の門を叩いた。
「あ、江戸の辰吉さんでしたか」
出てきたのは、若い医者の三四郎であった。
「才太郎の様子を見に来ました」
「才太郎は元気ですよ、もう殆ど治っているので、よく我らの手伝いをしてくれます」
「よかった、そろそろ大坂へ連れていけますか?」
「えっ、大坂へ連れて行くのですか?」
「はい、俺の親父の店せ、立派な商人にしてやります」
「本人がそう言ったのですか?」
「はい、才太郎もその積りでいるでしょう」
三四郎医師は、才太郎を呼び寄せた。
「江戸の辰吉さんだ、おいらの命を助けてくれて、有難うございました、もう大丈夫です」
「そうかい、それは良かったなぁ、もうすぐ、大坂へ行けるぞ」
「大坂へ行くのですか?」
「当たり前だろう、大坂へ行って立派な商人になるのだ」
「いえ、おいらはここに居て、三四郎先生や、佐助先生のような立派な医者になります」

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- 2016-01-20 17:09:06