なお金なのに

「何の礼だ」
   「いえ、私が話したことを信じて頂いたお礼です」

 その日、収穫の手伝いをして、肥やしについての話も聞かせてもらった。肥やしというものは、便所から組んだ真新しい屎尿は肥料として使えないのだそうである。肥料だと言って畑に小便を掛けるのも、野菜を枯らしてしまうだけだと教えられた。屎尿は肥溜めに入れて一年間寝かせたも釜山自由行のが肥料になる。
   「それ、そこに竹で編んだ蓋をかけたところがあるだろ、それが肥溜めだ」
   「では、家の傍から私が担いできたのは?」
   「昨日の残りだ、半分撒いたところで日暮れになったので、畑に置いておくと猪が倒してしまうので家に持ち帰って納屋に入れておいたのだ」
   「本当は一杯入っていたのですね」
   「そうだ、婆さん一人残して老ぼれる訳にはいかんのでな」
   「おじさん、無理をしてはいけませんよ、お子達はどうしたのですか?」
   「わしら夫婦は、とうとう子供に恵まれなかった、神様に見落とされたようだ」
 その日は、日が暮れるまで、老人の手伝いをして、話もいっぱいした。

   「おじいさん、お帰り、ご苦労さまでした」
 老婆はそう言って、まだ祥太郎が曼谷旅遊居るのに気付いた。
   「おや。お芋二個で、この時刻まで手伝ってもらったのですか?」
   「そうだ、よく働いてくれた、骨休めが出来たというものだ」
   「まあ、お気の毒に、済みませんでしたね」
   「いえ、おじさんに、いろいろ勉強になることを教わりました」
   「お爺さんが教えたのですか、とんだ先生ですこと」
   「なにをぬかすか、これでも昔とった杵柄で、畑のことなら任せておけというものだ」
今夜はここに泊まってくれるそうだから、なにか美味しいものでも食べさせてやってくれと、老人は妻に頼んだ。
   「と、言われても、たいしたものは無いのですよ」
 老婆も、なんだか浮き浮きしている。久しぶりの若い客なのだろう。
 行水をして、食事も済ませた後、老人は言った。
   「お前さん、侍の子だから字は読めるのだろう」
   「はい、読み書き算盤は出来ます、剣道は無茶苦茶流ですが」
   「そうか、では…」
 老人はそう言って、仏壇の前に進み、抽斗から紙切れを取り出した。
   「これを読んでくれNespresso Pixie Clips咖啡機ないか」
   「はい」
祥太郎は紙切れに書いてあるのを読んで、首を傾げた。
   「おじさん、これは借用書ですね」
   「そうだ、人になけなしの金を貸したのだが、五年経っても返してくれないのだ」
   「債権者 六兵衛殿 金十両 右記の金額を借用するもの也 と、あります」
   「それだけか?」
   「いいえ、債務者 耕太郎 とありますが、その後がいけません」
   「と、言うと?」
   「ある時払いの、催促なし と書いてあります」
   「それはどういうことだ?」
   「お金ができれば返すが、催促をしてはいけないと言うことです、即ち返す意志がないということになりますね」
   「やはりそうか、わしらは字が読めないことを知って、企んだのだな」
   「そのようですね」
   「やはりそうだったのか、悔しいが仕方がない、諦めるか」
 六兵衛は、がっかりと肩を落とした。
   「おじさん、諦めることはありませんよ」
   「打つ手はあるのか?」
   「わたしに任せて頂けますか?」
   「もし、少しでも金が戻れば、お前さんにあげよう」
   「要りませんよ、おじさんの大切」
 とにかく、明日耕太郎のところへ行ってみようと祥太郎は思った。家の場所を訊き、納屋の片隅に積まれた藁の上に、筵を敷いて眠った。