てはならない

それは文明的な戦闘とはとうてい言えないものだった。クリングの部族の最初の攻撃で、戦場は敵と味方が入り乱れた大混戦に陥った。聖騎士たちは、目の前の醜悪な怪物が痛みを感じないらしいことにすぐに気づいた。もっとも、それがこの生き血管外科醫生物の本来の性質なのか、それとも召喚者から与えられた防御の一種なのかは判然としない。厚い毛皮の下の筋肉はあり得ないほど頑丈だった。剣が跳ね返されるというわけではないが、すぱっと切れないのだ。最高の一撃が決まっても、相手はほんのかすり傷を負うだけだった。
 それでもペロイ族のサーベルはなかなか役に立っていた。鋭い切っ先をすばやく突き立てるほうが、重い大剣《ブロードソード》を大上段から振り下ろすよりもよほど効果的なのだ。厚い毛皮を貫いてしまえば、さしもの怪物も苦痛の悲鳴を上げた。ストラゲンは目を輝かせて毛深い敵の中に馬で躍りこみ、細身剣《レイピア》を閃《ひらめ》かせた。不器用に振りまわされる斧をよけ、石の穂先のついた槍をかわして、毛だらけの身体にやすやすと切っ先を沈める。
「スパーホーク! こいつらの心臓はかなり下のほうだ! 胸じゃなくて、腹を狙え!」
 それでだいぶ簡単になった。聖騎士たちは作戦を変更し、刃で叩き斬るのではなく、剣を腹に突き立てるようにした。ベヴィエもしぶしぶロッホアーバー斧を鞍に戻し、剣を抜いた。クリクもフレイルを捨てて、短い剣を手にした。だがアラスは頑固に斧にこだわっていた。それでも状況のきびしさはわかっているらしく、いつもは片手で血管外科醫生扱う斧を、このときばかりは両手で握っていた。アラスの剛力をもってすれば、頑丈な毛皮も厚い頭蓋骨も、あまり苦にはならないようだった。
 戦況はすっかり変化していた。だが巨体の獣たちはその変化が理解できないらしく、突き出される剣の前に次々と倒されていった。最後に残ったわずかな数の一団は、仲間が全滅しているにもかかわらず、なお戦いをやめようとはしなかった。そこへクリングの一隊が電光のように駆けこんできて、残りをことごとく片付けてしまった。最後まで立っていた一匹は、十ヵ所以上ものサーベルの傷から血を流しながら、顔を上げてあのかん高い遠吠えを上げた。アラスが進み出て鐙《あぶみ》の上に立ち上がり、斧を頭の上から振り下ろした。斧は顎のあたりまでめり込んで、遠吠えはとだえた。
 スパーホークは血のしたたる剣を手にしてふり返ったが、敵はことごとく倒れていた。さらによくあたりを見まわすと、勝利のために多大な犠牲を払ったことがわかった。クリングの手下が十人以上も倒れ――ただ倒れただけではなく、身体をずたずたに引き裂かれていた。ほかにも同じくらいの数の者たちが、血の海の中でうめき声を上げている。
 クリングは草の上に足を組んで座り、死にかけた男の頭を揺すってやっていた。その顔には悲しみがあふれていた。
「残念だ、ドミ」スパーホークが言った。「どのくらいの負傷者が出たか教えてくれ。手当の方法を何か考えよう。きみたちの土地まで、あとどのくらいだと思う?」
「精いっぱいに馬を駆って一日半だ、友スパーホーク。二十リーグに少し欠ける」クリングは死んだばかりの戦士の目をそっと閉じさせた。
 隊列の最後尾では、ベリットが馬上で斧を手にして、タレンとセフレーニアを守っていた。
「終わりましたか」セフレーニアが目をそむけるようにして尋ねた。
「はい」スパーホークは馬を下りた。「あれは何だったんです、小さき母上。トロールのようにも思えますが、アラスは違うと言ってます」
「原始人ですよ、スパーホーク。とても古く、とても難しい呪文です。神々と、スティリクムの魔術師の中でも特別に力の強いほんのわずかな者だけが、時をさかのぼって動物や人間を連れてくることができます。原始人が地上を歩いていたのは、数えきれないほどの時血管外科醫生代をさかのぼった、はるか大昔のことです。わたしたちは、かつてみんなああいう姿をしていました。エレネ人も、スティリクム人も、トロールさえもが」
「人間とトロールが親戚だって言うんですか」騎士は疑わしげに尋ねた。
「とても離れていますけれどね。はるか太古に変化があって、トロールと人間は別々の道を歩みはじめたのです」
「ノームが凍りつかせた時間の中も、思ったほど安全ではないようですね」
「ええ、確かに」
「そろそろまた太陽を動かす潮時でしょう。追ってくる者たちの目は、時間の隙間に逃げこんでもごまかせない。しかもここではスティリクムの魔術が働きません。だったら普通の時間の中にいたほうが安全です」
「わたしもそう思います、スパーホーク」
 スパーホークはベーリオンを小袋から取り出し、ノームを呼び出して呪文を解かせた。
 クリングの手下のペロイ族は、死者と負傷者を運ぶための担架をこしらえていた。ふたたび前進を始めた一行は、鳥がちゃんと飛んでいて、太陽がきちんと動きはじめたのを見て、ほっと安堵のため息をついた。
 翌朝、ペロイの巡邏隊が一行を見つけ、クリングが進み出て友人たちと協議を始めた。戻ってきたとき、その顔はきびしかった。
「ゼモック人は草に火をかけてる。友スパーホーク、悪いがあまり長く付き合えそうにない。牧草地を守らなくし、そのためにはできるだけの人数で、広く分散しなくてはならない」
 ベヴィエが何か思いついた顔でクリングに話しかけた。
「ゼモック人が一ヵ所に集まっていたほうが簡単なのではありませんか、ドミ」
「それはもちろんだ、友ベヴィエ。だがどうしてやつらが一ヵ所に集まる?」
「価値のあるものを奪うためです、友クリング」
 クリングは興味を持ったようだった。「たとえば?」
 ベヴィエが肩をすくめる。
「黄金とか、女とか、家畜とか」
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