がスパーホーク

「幸運を祈る」テルは短くそう言うと、仲間二人と手荒くタレンを鞍から抱え上げ、武器を取り上げて自分の馬のうしろに縛りつけた。南に向かう馬の背中からタレンがスパーホークに投げつけた悪口雑言の数々は、大部分がきわめてあからさまなものだった。
「その子にはあの言葉の意味はわからないんでしょうね」スパーホークは意味ありげにフルートを見ながらセ王賜豪總裁フレーニアに尋ねた。
「わたしがそこにいないみたいな話し方はやめてくれない」少女がぴしゃりと言った。「さっきの言葉の意味ならちゃんと知ってるわ。でもエレネ語は悪態をつくには向いてないみたいね。スティリクム語のほうが語彙《ごい》が豊かだわ。でも本当に悪態をつきたいと思うなら、トロール語を試してみるのね」
「トロール語がわかるのか」スパーホークは驚いて尋ねた。
「もちろん。誰だってそうじゃない。ヘイドへ行っても仕方ないわ。陰気な街よ。泥と腐った丸太とかびのはえた屋根しかないの。西へ迂回して。谷に出るから、そこをたどるのよ」
 一行はヘイドを迂回し、さらに急な山道へと踏みこんでいった。フルートはじっとあたりに目を凝《こ》らしていたが、やがて指を上げた。
「そこよ。そこを左へ入るの」
 谷の入口で馬を止めたスパーホークたち一行は、フルートの指差した道を見て渋い顔になった。道といっても鋁門窗踏み分け道で、しかも相当に曲がりくねっているようだ。
「あまり期待できそうにないな」スパーホークが疑わしげな声で言った。「もう何年も、誰も通ったことがなさそうじゃないか」
「人間の道じゃないわ。獣道《けものみち》よ――一種のね」
「どういう獣が通るんだ」
「あれを見て」フルートが前方を指差した。
 それは下が平らになった丸石で、表面には何かの絵が雑なタッチで線刻されていた。かなり風化した古いものだったが、絵の不気味さはわかった。
「何だ、あれは」
「警告よ。あれはトロールの絵なの」
「トロールの国に連れていくつもりだったのか」スパーホークが警戒して尋ねる。
「ねえスパーホーク、グエリグはトロールなのよ。ほかのどこに住んでると思ってたの」
「洞窟へ行くのに、ほかに道はないのか」
「ないわ。トロールに出会ってもわたしが脅して追い払えるし、オーガーは昼間は外に出てこないから、問題はないはずよ」
「オーガーもいるのか」
「もちろん。オーガーはトロールと同じ地域に棲息してる。誰だって知ってることよ」
「わたしは知らなかった」
「でも、もう知ってる。これって時間の無駄よ、スパーホーク」
「一列縦隊で行くしかない」騎士はクリクにそう言って、セフレーニアに目を向けた。「わたしのうしろにぴったりくっついててください。ばらばらになりたくない」スパーホークは速足《トロット》で進みはじめた。手にはアルドレアスの槍を握っている。
 フルートが指示した谷は狭くて薄暗かった。切り立った左右の斜面に生えている丈高い樅《もみ》の木の樹皮は黒く見え帳篷るほどだし、谷が深いために、日光が射しこむこともほとんどないようだ。狭い谷底には山から流れてきた水が音を立てていた。
「ガセックへ行く道だって、これほどじゃありませんでしたよ」水音に負けないようにクリクが叫んだ。
「静かにするように言って」フルートにささやいた。「トロールはとても耳がいいの」
 スパーホークは振り向いて、唇に指を当てた。クリクがうなずき返す。
 道の左右の急な斜面に生い茂る木々には、枯れて白骨のようになった枝がやたらと目についた。スパーホークは身をかがめ、唇をフルートの耳元に近づけた。
「どうして木が枯れてるんだ」
「夜になるとオーガーが出てきて、枝をかじるのよ。それで枯れる木も出てくるの」
「オーガーは肉食じゃないのか」
「何だって食べるわ。もっと速度を上げられない?」
「ここでは無理だ。ひどく道が悪い。先へ行けば少しはよくなるのか」
「谷を抜ければ山地の中の平らなところに出るわ」
「高原のことか」

ペロシア国の都市バレ

アラスは斧を手にしてうなるように答えた。「この程度の仕事に、大袈裟《おおげさ》すぎる」
 スパーホークはファランの背にまたがり、盾《たて》を皮紐《かわひも》で固定して剣を抜いた。二人が歩み出て如新nuskin產品しばらくすると、隠れていたゼモック人たちが警戒の叫びを上げながら飛び出し、逃げていった。
「しばらく追いかけよう」とスパーホーク。「息が切れて戻ってこられない程度にまで消耗させておきたい」
「わかった」アラスは普通駆足《キャンター》で馬を走らせた。
 二人の騎士はゼモック人たちが隠れていた藪《やぶ》を踏みしだき、どこまでも広がる平原へと敵を追いかけた。
「どうして殺さない」アラ如新nuskin產品スがスパーホークに叫びかける。
「その必要はないだろう」スパーホークも叫びかえした。「たった四人だ。大した脅威にはならない」
「甘いな、スパーホーク」
「そうでもないさ」
 二人は二十分ほどゼモック人を追いかけて馬を止めた。
「よく走る連中だ」アラスが小さく笑った。「そろそろ戻らないか。いい加減飽きてきた」
 二人が合流して、一行は湖沿いに北へ向かった。農民の姿は見かけたが、ゼモック人のいる様子はない。アラス如新nuskin香港とクリクが先頭に立って、一行はゆっくりと進んでいった。
「さっきの連中は何をしてたんだと思う」カルテンがスパーホークに尋ねた。金髪の騎士は馬車を引く馬の手綱を執《と》っていたが、片方の手は折れた肋骨の上を押さえていた。
「オサは戦場を掘り返す者をすべて見張らせているんだと思う」スパーホークが答える。「誰かがベーリオンに出くわした場合、オサとしてはぜひそれを知りたいだろうからな」
「つまりもっといるはずだってことか。しっかり目を見開いといたほうがいいな」
 日が高くなるにつれて気温も上がり、先週のように雲がかかって雨になってくれればいいのにと思えるほどになった。スパーホークは黒いエナメル引きの甲冑の中で汗にまみれながら、むっつりと馬を進めた。
 その晩はペロシアとの国境に近い樫《かし》の巨木の森で野営し、翌朝は早発ちした。国境を守っていた警備兵たちはうやうやしく道をあけ、午後のなかばには一行は丘の上に立って、ルを見下ろしていた。
「思ったよりも早く着きましたね」坂道を下りながらクリクが言った。「その地図、本当に正確なんですか」
「完全に正確な地図なんてあり得ない。だいたいのところがわかればいいのさ」
「サレシアの地図作りに知り合いがいる」アラスが口をはさんだ。「そいつはエムサットからフスダルまでの地図を作ろうとした。最初はあらゆるものを慎重に歩測していったんだが、一日かそこらで馬を買いこんで、目測ですませるようになった。できあがった地図は正確とはほど遠いものだったが、新しい地図を引くのが大変なので、誰もがそれを使っている」
 街の南門の門衛は質問らしい質問もせずに一行を通し、スパーホークは評判のいい宿の場所と名前を教えてもらった。
「タレン、この宿まで独りで行けるか」