て王さまになるんだ

「信用したまえ」ミスター?ウルフは言った。
「ありがとうございます」ブレンディグは軽く頭をさげた。「この宿屋のまわりに見張りを配置せざるをえないこともご承知おきください――むろん、保護のためです」
「お心づかい痛みいりますわ」ポルおばさんはそっけなく言った。
「おそれいります」ブレンディグは形式ばったお辞儀をすると、きびすを返して出ていった。
 磨きあげたドアはただの木だった。それはわかっていたが、ブレンディグの背後でドアがしまったとき、ガリオンに乳鐵蛋白はそれが牢屋のドアのあのぞっとする決定的な響きを持っているような気がした。
カマールからセンダリアの都へ至る海岸道路をかれらは九日がかりで進んだが、距離にすればそれはわずか五十五リーグにすぎなかった。ブレンディグ連隊長のペース配分が慎重なのと、彼の率いる分遣隊が逃亡を考えることもできないような方法で配列されていたため、そんなに日数がかかったのである。雪はやんでいたが、あいかわらず道は悪く、沖合から吹きつけて雪に埋もれた広い塩性湿地をわたる風は凍てつくように冷たかった。長くのびた無人の海岸ぞいにセンダリアの宿屋が里程標よろしく等間隔で建っていて、かれらは夜が訪れるたびそれらの宿に泊った。〈北の大街道〉ぞいにあるトルネドラの旅館にくらべるとやや見劣りしたが、必要を満たすことはできた。ブレンディグ連隊長はかれらが快適であるよう気を配っているようだったが、毎晩見張りをおくことも怠らなか免疫系統った。
 二日めの夜、ガリオンはダーニクとともに暖炉のそばに坐って憂欝そうに炎をじっと見ていた。ダーニクはもっとも古い友人であり、そのときのガリオンは無性に友情がほしい気分だった。
「ダーニク」かれはとうとう言った。
「なんだね?」
「牢屋にはいったことある?」
「牢屋に入れられるようなことをわたしがすると思うのか?」
「見たことぐらいあるかと思ったんだ」
「正直者はそんなところへは近寄ら更年期中醫ないよ」
「いやなところなんだってね――暗くて寒くてネズミがいっぱいいて」
「どうして牢屋の話などするんだね?」
「もうじきそういう場所に詳しくなるんじゃないかと思ってさ」ガリオンはつとめて平気な口ぶりで言った。
「われわれは悪いことはなにもしていない」
「じゃあどうして王さまはこんなふうにぼくたちをつかまえたんだろう? ちゃんとした理由がなければこんなことしないよ」
「われわれは悪いことはなにひとつしていない」ダーニクはかたくなにくり返した。
「でもミスター?ウルフがしたかもしれない」ガリオンはほのめかした。「なにか理由がなけりゃ、王さまがこれだけの兵隊を送りこんでミスター?ウルフを追跡させるわけがないんだ――そしてたまたま仲間だというだけでぼくたち全員投獄されてしまうのかもしれないよ」
「センダリアではそんなことは起こらない」ダーニクはきっぱり言った。
 翌日、沖合からすさまじい烈風が吹きつけてきたが、それはなまあたたかく、足首まで埋まる路上の雪がぬかるみはじめた。昼には雨がふりだした。かれらはずぶぬれになって次の宿屋へ向かった。
「この強風が静まるまで先へ進むのは見合わせなくてはならないようだ」その夜ブレンディグ連隊長は宿屋の小窓の外を見ながら言った。「道路は朝には通行不可能な状態になっているだろう」
 翌日もその次の日も、かれらは宿屋の狭い主室に腰をおろして、壁や屋根にたたきつけられる雨の音を聞きながら時間をすごした。その間ずっと、ブレンディグとその兵隊の監視の目が光っていた。
 二日め、ガリオンは腰かけの上でうとうとしているネズミ顔の小男に近づいて、声をかけた。
「シルク」
「なんだ、ガリオン?」シルクは目をさまして訊いた。
「王さまってどんな人?」
「どの王だ?」
「センダリアの王さまだよ」
「愚かな男さ――王のごたぶんにもれず」シルクは笑った。「センダリアの王たちは他の王より愚かしさの度合いがいくぶん強いかもしれないが、それにしたところでごくあたりまえのことだ。なぜそんなことを訊く?」
「うん――」ガリオンはためらった。「だれかが王さまの気に入らないことをしたと仮定するでしょう、ところがほかにも一緒に旅をしている者がいて、その人たちまでつかまった場合、王さまは全員牢屋に入れちゃうのかな? それとも他のみんなは放免されて、王さまを怒らせた人だけが投獄されるのかな?」
 シルクはまじまじとガリオンを見たあと、きっぱりと言った。「きみらしくもない質問だぞ、ガリオン」
 ガリオンは赤くなり、きゅうに穴があったらはいりたいような気持になって、小さな声で言った。「ぼく牢屋がこわいんだ。理由もわからないで、永久に暗闇に閉じこめられたくないんだ」
「センダリアの王たちは公正で正直な連中だよ」シルクは言いきかせた。「とびきり頭がいいわけじゃないが、公明正大なんだ」
「頭がよくなくて、どうして王さまになれるの?」ガリオンは反論した。
「知恵は王には有益な資質だが、絶対必要なものじゃない」
「それじゃ、王さまたちはどうやっろう?」
「ある者は生まれついての王なんだ。世界一の愚か者でも、しかるべき両親がいれば王になれる。センダリアの王たちはその点不利だ。出身がいやしいからな」
「いやしいって?」
「かれらは選出されたのさ。王を選ぶなんてことは今までだれもしなかった――センダー人だけがやったことさ」
「どうやって選ぶの?」